電動キックボードのシェアリングサービスを展開する「Lime(ライム)」と「LUUP(ループ)」について、それぞれの企業の成り立ち、本社の国籍、取締役の国籍を比較・整理してまとめます。
Lime(ライム)
企業の成り立ち:
2017年1月に「LimeBike」として設立。
創業者は、中国大手IT企業テンセント(Tencent)の元幹部であるトビー・サン(Toby Sun)氏とブラッド・バオ(Brad Bao)氏。
都市部における「ラストワンマイル」の交通課題(駅から目的地までの移動)を解決するため、当初は特定の駐輪場を持たない(ドックレストップ型の)シェアサイクル事業からスタートしました。
その後、電動キックボード事業に参入し、Uberやベンチャーキャピタルからの巨額の資金調達を経て、世界最大級のマイクロモビリティ企業へと急成長を遂げました。
本社の国籍:
アメリカ合衆国(カリフォルニア州 サンフランシスコ)。
取締役(経営陣)の国籍:
主にアメリカ国籍および中国出身者によって構成されています。
創業者の両氏(現会長のブラッド・バオ氏、トビー・サン氏)は中国で育ち、米国のカリフォルニア大学バークレー校で出会い起業しました。
現在のCEO(最高経営責任者)であるウェイン・ティン(Wayne Ting)氏は台湾系アメリカ人です。
その他の取締役は、主要株主であるUberからの出向者や米国の投資家など、アメリカ国籍のメンバーが中心となっています(一部、スコットランド出身の元Volvo CEOのジム・ローワン氏なども名を連ねています)。
LUUP(ループ)
企業の成り立ち:
2018年7月に「株式会社Luup」として日本で設立。
創業者は、東京大学農学部出身で戦略系コンサルティングファームを経て起業した岡井大輝氏らです。
「街じゅうを『駅前化』するインフラをつくる」というミッションを掲げ、日本国内の交通課題解決と地域活性化を目指してスタートしました。
日本国内特有の厳しい交通法規制のなかで事業を展開するため、2019年に「マイクロモビリティ推進協議会」を設立。政府や自治体と連携した実証実験を重ねて法改正を後押しし、全国の主要都市でシェアリングサービスを拡大しています。
本社の国籍:
日本(東京都品川区)。
取締役(経営陣)の国籍:
日本国籍です。
代表取締役社長兼CEOの岡井大輝氏をはじめ、共同創業者であるCTOの岡田直道氏、取締役CFOの向山哲史氏、取締役COOの牧田涼太郎氏など、経営陣は日本人で構成されています。
また、大西賢氏(元日本航空社長)などの社外取締役や監査役も含め、役員陣は日本国籍のメンバーで固められています。
それぞれの企業が日本でビジネスを展開するに至った背景やきっかけ、そして関わりの深い省庁について整理します。
LUUP(ループ)
日本展開のきっかけ
創業者である岡井大輝氏の祖母が介護を必要としていたことが原点です。当初、岡井氏は隙間時間で働く介護士と要介護者をマッチングするサービスの立ち上げを目指していました。しかし、介護士が各家庭を訪問するための「短距離の移動手段」が決定的に不足している現実に直面しました。この日本特有の「ラストワンマイルの交通インフラ課題」を解決しなければならないと痛感したことが、個人向けの電動マイクロモビリティ事業へと舵を切るきっかけとなりました。
働きかけた省庁
事業開始当初、日本の法律において電動キックボードは「原動機付自転車(原付バイク)」と同じ扱いであり、免許やヘルメットが必須でシェアリングには不向きでした。現状の法規制を変えるため、LUUPは同業他社と「マイクロモビリティ推進協議会」を立ち上げ、主に以下の省庁へ積極的に働きかけました。
経済産業省: 「新事業特例制度(規制のサンドボックス制度)」を活用し、特例措置として公道での電動キックボードの実証実験を行えるよう連携しました。
警察庁: 経済産業省の枠組みで行った実証実験のデータ(事故率や安全性の検証結果など)を提出し、新たな交通ルールを定めるための「道路交通法」の改正に向けた協議を重ねました。
国土交通省: 電動キックボードが公道を安全に走るための「車両の保安基準(ウインカーやブレーキ、最高速度の制限構造など)」の策定に向けた調整を行いました。
Lime(ライム)
日本展開(再参入)のきっかけ
Limeは2019年頃に一度日本での事業展開を模索していましたが、当時は法規制が厳しく(原付扱い)、大規模なサービス展開は困難だと判断し本格参入を見送っていました。しかし、LUUPなどの国内事業者の働きかけによって2023年7月に改正道路交通法が施行され、免許不要(16歳以上)で乗れる「特定小型原動機付自転車(特定小型原付)」という新しい車両区分が誕生しました。この日本国内の「大幅な規制緩和」が最大の追い風となり、2024年8月からの本格的な日本市場への事業展開(再上陸)のきっかけとなりました。
関わりの深い省庁
日本の法整備自体は国内企業が主導した側面が強いですが、Limeが自社のグローバルモデルを日本に持ち込むにあたって、新ルールを管轄する以下の省庁の基準をクリアしています。
警察庁: 日本の改正道路交通法の基準に適合させるため、最高速度を時速20kmに制限するシステムや、歩道を通行する際に必要な「時速6kmモード(歩行用モード)」を車体に組み込むなど、厳格なローカライズを行いました。
国土交通省: 新たに投入した電動キックボードや着座式の「電動シートボード」が日本の保安基準を満たしている証明として、国土交通省が認可する機関(日本自動車輸送技術協会など)による性能等確認を正式に取得したうえでサービスを開始しています。
日本の省庁(主に警察庁と国土交通省)は、フランス・パリをはじめとする海外での電動キックボードの事故多発や、シェアリングサービスが住民投票を経て廃止(撤去)に追い込まれた事態を十分に把握し、制度設計の段階から強く意識・考慮しています。
国会答弁や警察庁の有識者検討会でも、「海外で起きた交通トラブルや景観悪化(放置キックボード)の失敗を、日本で繰り返してはならない」という前提で議論が進められました。
そのため、2023年7月に施行された日本の新ルール(特定小型原動機付自転車)は、パリなどの失敗事例を踏まえ、世界的に見てもかなり特殊で厳格な独自の安全基準が組み込まれています。
具体的に考慮・反映されている点は以下の通りです。
1. 速度制御と歩道走行の厳格な分離(日本独自の仕組み)
パリなどの海外では、時速20〜25kmのスピードが出せる状態で歩道に乗り上げ、歩行者と接触する事故が多発しました。 これを防ぐため、日本の省庁は「歩道を走る場合は、物理的に最高速度を時速6km(早歩き程度)に制限する機能」を車体に義務付けました。さらに、現在どのモードで走っているか周囲の歩行者や警察官が一目でわかるよう、「最高速度表示灯(緑色のランプ)の点滅/点灯」という世界に類を見ない日本独自の保安基準を設けました。
2. 「無秩序な乗り捨て」の防止(ポート制の徹底)
パリで市民の怒りを買い、規制の最大の要因となったのが「街中への無秩序な乗り捨て(放置車両)」による景観悪化と歩行妨害です。 日本のルールでは、シェアリング事業者に対して専用の「ポート(駐輪場)」の設置を求め、アプリ上で指定のポートに返却しないと課金が終了しない(乗り捨てできない)システムを事実上の必須条件としました。
3. 車両の安全性(保安基準)とナンバープレートの義務化
海外では粗悪な車体による事故も起きていたため、国土交通省はブレーキ性能やウィンカー、ヘッドライトなどの厳格な保安基準を定め、これをクリアした車体でなければ公道走行を認めていません。また、シェアリング・個人所有を問わず、全ての機体にナンバープレート(標識)の取得と自賠責保険の加入を義務付けています。
現在の省庁のスタンス
日本の省庁は「海外の失敗を踏まえた厳しいハードウェア要件を作った」という立場ですが、導入後も放任しているわけではありません。 実際に日本国内でも交通違反や飲酒運転などが問題化しているため、警察庁は事業者に対して「悪質な交通違反をした利用者のアカウント凍結」などを強く指導しています。また、現場の警察官による交通反則切符(青切符)や赤切符を用いた取り締まりを強化しており、事故や違反の増減によっては、将来的にさらなる規制強化へ踏み切る含みも持たせています。
仏・パリでの電動キックボード規制の動き この動画は、パリで電動キックボードのルール違反や事故が急増し、住民投票による規制が検討され始めた当時の状況を報じており、日本の法整備の背景にある海外の課題を理解するのに役立ちます。
省庁がどれだけ厳格なルールや車両基準を設けても、現実の日本の道路(特に都心部)では、歩道を疾走したり、赤信号を無視したりする電動キックボードが後を絶ちません。
制度と現実の間にこれほどのギャップが生じてしまっているのには、主に以下の4つの理由があります。
1. 「免許不要」による交通ルールの無知と軽視
最大の要因は、特定小型原付が「16歳以上であれば免許不要」で乗れてしまう点です。 自動車やバイクの運転手は、教習所で何十時間も交通法規を学び、試験に合格するプロセスを経ていますが、キックボード利用者の多くはその経験がありません。シェアリング事業者はアプリ内で交通ルールのテストを義務付けていますが、正解するまで何度でも押し直しができる形式的なものが多く、「車道左側通行」や「歩道走行時の時速6km制限」といったルールが利用者の身についていないのが実態です。
2. 取り締まりの「物理的な限界」と追跡のリスク
警察も決して放置しているわけではなく、交通反則切符(青切符)や赤切符による取り締まりを日々行っています。しかし、以下の理由から全ての違反を検挙するのは困難です。
機動性の高さ: 車と違い、細い路地や歩道に逃げ込まれるとパトカーでは追跡できません。
二次被害のリスク: ヘルメットを被っていない生身の利用者をパトカーや白バイで深追いすると、転倒による重大事故を誘発するリスクがあり、警察側も強引な追跡を躊躇せざるを得ないジレンマがあります。
人員不足: 街中の至る所で発生する短時間の違反を、限られた人数の警察官で網羅することは不可能です。
3. 「自転車感覚の延長」という心理的ハードル
日本では長年、「自転車の歩道走行」や「自転車の信号無視」が半ば黙認されてきた歴史があり、自転車の交通マナーが非常に悪いという背景があります。多くの利用者が、電動キックボードを「バイク」ではなく「自転車の延長」として捉えているため、「自転車が歩道を走っているからキックボードも大丈夫だろう」「自転車と同じように交差点をショートカットしても捕まらないだろう」という軽い心理で違反を犯しています。
4. ネット通販で出回る「違法キックボード」の存在
歩道を猛スピードで疾走しているキックボードの中には、LUUPやLimeのようなシェアリング車両ではなく、個人所有の違法車両が多数混じっています。 シェアリング車両はシステムで最高時速20km(歩道モードは6km)に制限されています。しかし、ネット通販等では「時速30〜40km以上出るうえに、歩道モード(最高速度表示灯)がない機体」が安価で売られています。これらを原付免許やナンバープレートなしに公道で乗り回す悪質な個人ユーザーが存在し、事態をより無法地帯に見せています。
現在、警察と事業者は「違反者のアカウント永久凍結(事実上の利用出禁)」や、交差点での定点取り締まりを強化していますが、利用者のモラル向上と取り締まりの網が完全に追いつくまでは、まだ時間がかかるのが現状です。
街中で危険な走行が放置されている現状を見れば、「裏で省庁と企業の間に利権(癒着)があるのではないか」と疑問を抱かれるのは、ごく自然な感情と言えます。
結論から申し上げますと、いわゆる違法な賄賂や汚職といった意味での「利権」があるという証拠はありません。しかし、市民の目には利権に映るほど、「政府の推進したい国策」と「企業のビジネスモデル」が強烈に結びついている(利害が一致している)のは事実です。
日本でフランスのような「全面廃止論」が政府内からすぐに出てこない背景には、以下の3つの大きな構造的な理由があります。
1. 「スタートアップ育成」という国策との一致
現在の日本政府(特に経済産業省)は、「日本から世界で戦えるユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)を創出する」ことを国家の最重要課題の一つに掲げています。 LUUPをはじめとするモビリティ企業は、まさにこの「日本発の有望なスタートアップ」の筆頭格として扱われています。政府としては、自ら規制を緩和して育てようとしている成長産業を、数年で自ら潰す(廃止する)ことは、国家戦略の失敗を認めることになるため、極めて避けたいという本音があります。
2. 「天下り」と映りかねない強力なロビイング体制
ルールを作る側(省庁)と作ってもらう側(企業)の距離が非常に近いことも、利権を疑われる要因です。 モビリティ事業者たちは、単に外から要望を出すだけでなく、元警察官僚や元省庁の幹部などを「顧問」や「社外取締役」として積極的に企業側に招き入れています。 企業側からすれば「複雑な法律を遵守し、安全対策を警察とスムーズに協議するための専門家」という位置づけですが、一般市民から見れば「元官僚を天下りさせて、警察や省庁への顔利きに使っている(=利権化している)」と映りやすい構造があります。
3. 法改正から日が浅く「方針転換」できない官僚機構
2023年7月に「特定小型原動機付自転車」という新しい法律が施行されてから、まだ数年しか経過していません。 日本の官僚機構の性質上、鳴り物入りでスタートさせた大規模な法改正を、「やっぱり失敗だった」と短期間で撤回し、廃止論に持っていくことは前例がほとんどありません。そのため、現段階では「制度を廃止する」のではなく、「警察の取り締まり強化や、事業者にペナルティを課すことで是正していく」というアプローチをとらざるを得ないのが実情です。
日本とフランス(パリ)の決定的な違い
また、パリで廃止に至った最大の要因は、どこにでも乗り捨て可能な「ドックレス方式」によって、街中がキックボードのゴミ捨て場のようになり、景観破壊と歩行妨害が限界を超えたからです。
一方、日本(特にLUUP)は、自販機の横やマンションの空きスペースなどを地道に開拓し、「必ずポート(駐輪場)に返さなければならない」というシステムを構築しました。走行マナーの悪さは目立ちますが、パリほどの「無秩序な放置(駐車問題)」が起きていないことも、国内で即時廃止論にまで発展しない防波堤になっています。
現状の日本は、「国策として育てたい政府」と「危険視する市民」の間で摩擦が起きている過渡期にあります。今後、重大な死亡事故などが連続して発生した場合、世論の反発が国策を上回り、ヨーロッパのように強い規制や自治体ごとの排除へと傾く可能性は十分に考えられます。
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